記紀歌謡... 万葉集...

。.むらさきの 日傘すぼめてあがり来し 君をし見れば 襟あしの汗
ひと房の葡萄を持てば きみが手に 流るるごとく 秋の紫

記紀歌謡…万葉集…


八雲(やくも)立つ 出雲八重垣 妻ごみに 八重垣作る その八重垣を
[雲うつくしく立ち昇る出雲の国のわが家は、瑞垣八重にめぐらして、そのおく深く新妻とこもりくらそう いつまでも。 古事記]

笹葉(ささば)に打つや霰(あられ)の たしだしに 卒寝(ゐね)てむ後は 人は離(か)ゆとも
[笹の葉をしっかりと打つ霰の、その食い入るようなさまながら、わが愛する人を抱いて寝ることができたなら、ああそのあとはどうともなれ、離れてゆこうとも。…一度でいいから。 古事記]

愛(うるは)しと さ寝しさ寝てば 刈菰(かりごも)の 乱れば乱れ さ寝しさ寝てば
[「かわいい」と抱きしめて寝た以上は、もう刈りむしろの乱れのように乱れ乱れたとて、かまうものか、抱きしめて寝た以上は。 古事記]

葦原(あしはら)の 密(しげ)しき小屋(おや)に 菅畳(すがたたみ)  いや清敷(さやし)きて 我が二人寝し
[葦しげる原のさびしい小屋だけど 菅の畳をきよらかにしいて 二人で寝たっけね。 古事記]

衣(ころも)こそ 二重(ふたえ)も良き さ夜床(よどこ)を 並べむ君は 畏(かしこ)きろかも
[着物こそ二重に重ねて着るのも良いものですが、二人の女の寝床を並べようとなさるあなたは おそろしいお方ですこと。 日本書紀]


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思ふには 忍ぶることぞ 負けにける  色には出(い)でじと 思ひしものを
[あなたの思ふ心の強さには、耐え忍ぼうとする心の方が負けてしまった。決して素振りには出すまいと思っていたのに。  古今和歌集 五〇三]

紫の 一本(ひともと)ゆゑに 武蔵野の 草はみながら あわれとぞみる
[紫草が一本あるために、武蔵野の草のすべてが、いとしくすばらしいと思って見える。そのように、あなたに恋するので。  古今和歌集 八六七]

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くれなゐに 涙の色のなり行くを いくしほまでと 君にとはばや
(新古今和歌集 一一二三 式子内親王~道因法師)

よそながら あやしとだにも 思へかし 恋せぬ人の 袖の色かは
(新古今和歌集 一一二一)


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あかねさす 紫野行き標(しめ)野行き 野守は見ずや 君が袖振る
 〔巻一・二〇〕  額田王

紫草(むらさき)の にほへる妹を憎くあらば 人嬬(づま)ゆゑに あれ恋ひめやも
 〔巻一・二一〕 天武天皇

秋の田の 穂のへに霧らふ朝霞 いづへの方に我が恋やまむ
 〔巻二・八八〕 磐姫皇后

人言をしげみ言痛み おのが世に いまだ渡らぬ朝川わたる
 〔巻二・一一六〕 但馬皇女

秋の田の  穂向きのよれる片寄りに  君によりなな  言痛こちたかりとも
    (万2-114) 但馬皇女
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君待つと 吾が恋ひ居れば 吾が屋戸の簾(すだれ)うごかし秋の風吹く
 〔巻四・四八八〕 額田王

青山を 横ぎる雲の いちしろく 吾と笑(ゑ)まして 人に知らゆな
 〔巻   ・六八八〕

恋ひ恋ひて 逢へる時だに 愛(うるは)しき 言尽(ことつく)してよ 長くと思はば
 〔巻   ・六六一〕

前日(をとつい)も 昨日(きのう)も 今日(けふ)も 見つれども 明日さえ見まく 欲しき君かも
 〔巻   ・一〇一四〕

見わたせば 近き渡りを た廻(もとほ)り 今か来ますかと 恋ひつつぞ居る
 〔巻    ・二三七九〕

念(おも)はぬに到らば 妹が歓(うれ)しみと[と云って] 笑まむ眉引おもほゆるかも
 〔巻十一・二五四六〕 作者不詳

高き嶺(ね)に 雲の着く如(の)す 我れさへに 君に着きなな 高嶺と思(も)ひて
 〔巻   ・三五一四〕

斯(か)くばかり恋ひむものぞと念(おも)はねば  妹が袂(たもと)を纏(ま)かぬ夜もありき
 〔巻十一・二五四七〕 作者不詳

相見ては 面隠さるるものからに 継ぎて見まくの欲しき君かも
 〔巻十一・二五五四〕 作者不詳

難波人(なにはひと)  葦火焚く屋(や)の  煤(す)してあれど おのが妻こそ 常めずらしき
 〔巻     ・二六五一〕

わが背子[夫]が 朝けの形(すがた) 能(よ)く見ずて 今日の間を恋ひ暮らすかも
 〔巻十二・二八四一〕   柿本人麿歌集

朝去きて夕は来ます君ゆゑにゆゆしくも吾は歎きつるかも
 〔巻十二・二八九三〕 作者不詳

幼婦(をとめご)は 同じ情(こころ)に須臾(しましく)も 止む時も無く見むとぞ念(おも)ふ
 〔巻十二・二九二一〕 作者不詳

今は吾は死なむよ我背[あなた] 恋すれば一夜一日も 安けくもなし
 〔巻十二・二九三六〕 作者不詳

漁(いさ)りする  海人(あま)の楫(かじ)の音(と)  ゆくらかに 妹(いも)は心に 乗りにけるかも
 〔巻     ・三一七四〕

君が行く 海辺の宿に 霧立たば 我(あ)が立ち嘆く 息と知りませ
 〔巻     ・三五八〇〕

天地(あめつち)の 極(そこひ)のうらに 吾(あ)がごとく 君に恋ふらむ 人は実(さね)あらじ
 〔巻     ・三七五〇〕

憶良等は今は罷(まか)らむ 子哭くらむ その彼の母も 吾を待つらむぞ
 〔巻三・三三七〕 山上憶良

銀も金も玉も なにせむに まされる宝 子に如(し)かめやも
 〔巻五・八〇三〕 山上憶良

父母が 頭(かしら)かき撫で 幸(さ)くあれて 言ひし言葉(けとば)ぜ 忘れかねつる
 〔巻   ・四三四六〕

福のいかなる人か 黒髪の白くなるまで 妹[妻]が音(こえ)を聞く
 〔巻七・一四一一〕 作者不詳

あらたしき 年の始めの初春の 今日降る雪の いや重(し)け吉事(よごと)
 〔巻二十・四五一六=万葉集最後一首〕 大伴家持

(斎藤茂吉「万葉秀歌 上下巻」、青空文庫 iPad版。新潮日本古典集成 ほか)
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…加上、


まだあげ初めし前髮の   林檎のもとに見えしとき  前にさしたる花櫛の  花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて   林檎をわれにあたへしは   薄紅の秋の実に  人こひ初めしはじめなり

しりたまはずやわがこひは  雄々しき君の手に觸れて  嗚呼口紅をその口に  君にうつさでやむべきや

まだ弾きも見ぬをとめごの   胸にひそめる琴の音を   知るや君

水静かなる江戸川の   ながれの岸にうまれいで   岸の桜の花影に われは処女(おとめ)となりにけり

めぐり逢ふ君やいくたび あゝさなり君のごとくに 思より思をたどり

やなぎのいとのみだれがみ  うめのはなぐしさしそへて   びんのみだれを  かきあげよ

をかしさや  みだれてながき  鬢(びん)の毛を   黄楊(つげ)の小櫛に  かきあげよ

くろかみながく   やはらかき   をんなごころを   たれかしる

をとこのかたる   ことのはを   まこととおもふ   ことなかれ

をんなごころは   いやさらに   ふかきなさけの   こもるかな

こひするなかれ   をとめごよ   かなしむなかれ   わがともよ

こひするときと   かなしみ と   いづれかながき   いづれみじかき

わかきいのちの   をしければ   やみにも春の   香に酔はん

なつぐもゆけば   かげみえて   はなよりはなを   わたるらし

きみのかたちと   なつばなと   いづれうるはし   いづれやさしき

ふゆやまこえて   きみゆかば   なにをひかりの  わがみぞや

したへるひとの  もとにゆく   きみのうへこそ  たのしけれ

きみがさやけき   めのいろも   きみくれなゐの   くちびるも
きみがみどりの   くろかみも    またいつかみん   このわかれ

同じ時世に生れきて  同じいのちのあさぼらけ  君 からくれなゐの花は散り  われ命あり八重葎(むぐら)

はるははなさき はなちりて きみがはかばに かゝるとも

わかれといへば むかしよりこのひとのよの つねなるを

ながるゝみづを  ながむれば   ゆめはづかしき   なみだかな

そでにおほへる  うるはしき  ながかほばせを  あげよかし
ながくれなゐの かほばせに  ながるゝなみだ  われはぬぐはむ

すぎこしゆめぢを おもひみるに   こひこそつみなれ つみこそこひ

をとこの黒き目のいろの  お夏の胸に映るとき  をとこの紅き口脣の  お夏の口にもゆるとき

なにをいざよふ   むらさきの ふかきはやしの はるがすみ
なにかこひしき いはかげを ながれていづる いづみがは

いまひのひかり はるがすみ いまはなぐもり はるのあめ
あゝあゝはなの つゆに醉ひ ふかきはやしに うたへかし


つゆもまだひぬみどりばの  しげきこずゑのしたかげに  ほとゝぎすなく  夏のひの  もろ葉がくれの青梅も

夏の光のかゞやきて   さつきの雨のはれわたり   黄金いろづく梅が枝に  たのしきときやあるべきを

君を思へば かなしみも  緑にそゝぐ 夏の雨

をとめごゝろを   眞珠の藏とは友の見てしかど  寶の胸をひらくべき  戀の鍵だになかりしか

月はいでけり夏の夜の  青葉の蔭にさし添ひて  あふげば胸に忍び入る  ひかりのいろのさやけさや

梅も櫻も散りはてて  すでに柳はふかみどり  人はあかねど行く春を  いつまでこゝにとゞむべき  われに惜むな家づとの  一枝の筆の花の色香を

あしたにもまた   ゆふべにも  われにともなふおもひあり

わかきいのちの あさぼらけ こゝろのはるの たのしみよ

こひはにほへる むらさきの さきてちりぬる はななるを

あな寂寥や寂寥や  ひとりいましにあらずして  天にも地にも誰かまた  そのかなしみをあはれまむ

活きて微笑む  たのしさは  やがてつとめ   いそしみて   かなしみに勝つ  生命なり

もしやわれ草にありせば  野邊に萌え君に踏まれて  かつ靡きかつは微笑み  その足に觸れましものを

口脣に言葉ありとも  このこゝろ何か寫さむ  たゞ熱き胸より胸の琴にこそ傳ふべきなれ

たゞ知るは沈む春日の  目にうつる天のひらめき  なつかしき聲するかたに 花深き夕を思ふ

形となりて添はずとも  せめては影と添はましを  たがひにおもふこゝろすら 裂きて捨つべきこの世かな

樂しき初憶ふ毎  哀しき終堪へがたし  ふたゝびみたびめぐり逢ふ天つ惠みはありやなしや

剛愎(頑な)なりし吾さへも  折れて泣きしは戀なりき
荒き胸にも一輪の 花をかざすは戀なりき

黒髮われを覆ふとも  血潮はわれを染むるとも  花口脣を飾るとも思は胸を傷ましむ

(島崎藤村(1872年(明治5年) - 1943年(昭和18年)自選詩抄 ,「若菜集」 青空文庫 iPad版)


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その子二十(はたち)櫛に流るる黒髪のおごりの春の美しきかな

何となく君に待たるるここちして出でし花野の夕月夜かな

清水(きよみづ)へ祇園をよぎる花月夜こよひ逢ふ人みな美しき

髪に挿せば かくやくと射る夏の日や 王者の花の こがねひぐるま

鎌倉や 御仏なれど釈迦牟尼は 美男におわす 夏木立かな

神奈山(かんなやま) 関のいで湯も忘れめや  花いんげんの畑とくろ馬

わが軒のつららの櫛のまばゆけれ  朝日白馬(はくば)の山越えて来て


やは肌のあつき血潮に触れも見でさびしからずや道を説く君

「あらざりき」そは後(のち)の人のつぶやきし 我には永久(とは)のうつくしの夢

(與謝野晶子 1878年明治11年~1942年昭和17年詩篇全集「みだれ髪」ほか)


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2012.1.14, 4.15, 9.3加増 iiPhoneからZuoteng


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.▀ d.hatena.ne.jp/zuotengiphone/00120821
。.Imagine イマジ ン…強欲になる必要はない

.▀ d.hatena.ne.jp/zuotengiphone/00120416

..動き始めた 朝の街角 人の群れに 埋もれながら 空を見上げた
.サクラ吹雪の サライの空へ 流れてゆく 白い雲に 胸が震えた…
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.▀ d.hatena.ne.jp/zuotengiphone/00120813
2012-08-13「日本には水蒸気の多量なる事。…水、山にありていよいよ美、水のもっとも晶明なるもの、山中の湖これを代表し、水のもっとも清冽なるものは、山間の溪水これを代表す」……青空を仰いでごらん。青が争っている。あのひしめきが 静かさというもの。……どこまでも空を見ながら駈けて行った、なんていい気持ち、でも夢だった

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.▀ d.hatena.ne.jp/zuotengiphone/00120717
。.夏の光のかゞやきて さつきの雨のはれわたり たのしきときや あるべきを

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